債務整理の受任通知とは?
任意整理などの債務整理を弁護士・司法書士に依頼すると、すべての債権者に「受任通知」が送られることになります。
受け取った債権者は、それ以降債務者に取り立てができなくなるため、受任通知は債務者にとって非常にメリットが大きい書類と言えますが、その一方で、受任通知が送られるために生じるデメリットもあるんです。
債務整理と受任通知についてわかりやすくご紹介します。
受任通知とは?
受任通知は「債務整理開始通知」「介入通知」とも呼ばれていて、弁護士・司法書士が債務者の代理になって債務整理の手続きを執り行うことを債権者に通知するために発送されるものです。
債務整理を開始するには、この受任通知を送付するのが最初の手続きになります。
受任通知の内容とは?
受任通知は弁護士事務所・司法書士事務所が独自作成するので、決まった書式はありませんが、一般的には以下の内容が記載されることになります。
・債務者やその関係者への連絡や取り立てを一切行わないこと。
・支払いを停止すること(受任通知送付後は返済を止めることができます)。
また、受任通知はこれまでの取引(借り入れ、返済、延滞、金利など)をすべて記載した取引履歴の開示請求についても記載するのが通常です。
それから、過払い金が発生しているかもしれないケースで、過払い金返還請求の期限が迫っている場合には、過払い金が発生していたら過払い金返還請求を行う意思があることも受任通知に書き添えられることになります。
最後に、送付した受任通知が時効中断事由である債務承認には該当しないことも申し添えます。
受任通知が送られると取り立てが止まる
受任通知は債務整理の対象とするすべての債権者に送られることになります。例えば借り入れ先が5社ある場合は、5社それぞれに受任通知が送られます。
受任通知を受け取った債権者は、それ以降、債務者に直接取り立てを行うことができなくなり、電話・郵便・訪問などのすべての取り立てが行われなくなるので、催促の電話に追われて苦しいという状況から解放されます。
このように、受任通知には非常に大きい効力があるのですが、なぜ通知を送ることで取り立てを止めることができるのでしょうか?
受任通知の効果は法律によるもの
貸金業法21条1項には、債務整理を弁護士・司法書士に委任した場合に債務者に取り立てを制限するという内容が記載されています。
▼貸金業法21条1項(取立て行為の規制)
貸金業を営む者又は貸金業を営む者の貸付けの契約に基づく債権の取立てについて貸金業を営む者その他の者から委託を受けた者は、貸付けの契約に基づく債権の取立てをするに当たって、人を威迫し、又は次に掲げる言動その他の人の私生活若しくは業務の平穏を害するような言動をしてはならない。
・第9
債務者等が、貸付けの契約に基づく債権に係る債務の処理を弁護士若しくは弁護士法人若しくは司法書士若しくは司法書士法人(以下この号において「弁護士等」という。)に委託し、又はその処理のため必要な裁判所における民事事件に関する手続をとり、弁護士等又は裁判所から書面によりその旨の通知があつた場合において、正当な理由がないのに、債務者等に対し、電話をかけ、電報を送達し、若しくはファクシミリ装置を用いて送信し、又は訪問する方法により、当該債務を弁済することを要求し、これに対し債務者等から直接要求しないよう求められたにもかかわらず、更にこれらの方法で当該債務を弁済することを要求すること。引用元:貸金業法 -e-Gov-
上記は貸金業法による受任通知送付後の取り立てを制限するものですが、「債権管理回収業に関する特別措置法(サービサー法)」にも制限の記載があります。
▼債権管理回収業に関する特別措置法(サービサー法)
・第18条8項
債権回収会社は、債務者等が特定金銭債権に係る債務の処理を弁護士又は弁護士法人に委託し、又はその処理のため必要な裁判所における民事事件に関する手続をとった場合において、その旨の通知があったときは、正当な理由がないのに、債務者等に対し、訪問し又は電話をかけて、当該債務を弁済することを要求してはならない。
受任通知を受け取った債権者が、それ以降債務者に取り立てを行なってはならない理由は、これらの法律に基づくものなのです。
ちなみに、貸金業法では規制を守らなかった業者には2年以下の懲役と300万円以下の罰金、あるいはその両方が課せられるというとても重い罰則がありますし、貸金業登録の取り消しや業務停止の行政処分を受けることもあります。
受任通知の注意点・デメリット
受任通知は弁護士・司法書士が債権者に送るもので、これは債務整理を行う第一歩になりますが、受任通知の影響には注意点もありますのでご紹介します。
受任通知の効果はどこまで?
受任通知の効果は貸金業法によるものなので、受任通知を送ることで取り立てが禁止されるのは貸金業社となる消費者金融や信販会社などになります。
例えば、取引先からの借り入れや、親戚などの個人間の借り入れに受任通知を送ったとしても取り立てを止めることはできません。
それから、そもそも法律無視でお金を貸しているヤミ金の中にも請求を続けてくる業者もいるようです。
ヤミ金からの借り入れがある場合は、絶対に弁護士・司法書士に隠したりせず報告するようにしてください。
差し押さえをされる可能性は残る
「任意整理」においては、受任通知を送ってもお給料や銀行口座の差し押さえが行われてしまうことがあります。
債務整理を「個人再生」と「自己破産」で行う場合、手続きが始まれば強制執行を行うことは法律によってできなくなります。
ただし、任意整理には強制執行を止める効果や法律がありませんので、任意整理の手続きを開始しても訴訟されてしまう可能性が残ってしまうのです。
税金の督促を止めることはできない
税金は最優先で支払うべき債務で、自己破産をした場合でも、税金だけは免責とすることができません。
自己破産では銀行カードローンでも消費者金融もすべての返済を0円にすることができるのですが、税金はそのまま債務が残ることになるんです。
税金を長期間滞納すると、実際に差し押さえが行われてしまいますが、これを避けるには分納で支払うことをお願いするなどの方法があります。
銀行に受任通知を送ると口座が凍結される
銀行カードローンなどで銀行からお金を借りていて債務整理をする場合、銀行にも受任通知を送ることになります。
しかし、銀行に受任通知を送ると、その銀行の口座は凍結されることになってしまいます。
凍結された口座にある現金は、銀行カードローンからの借り入れと相殺されることになるのです。
受任通知を送る前に現金はすべて引き出しておくようにしましょう。
また、公共料金の引き落としや携帯料金の支払いなどに使っている銀行口座であれば支払いができなくなって延滞する可能性がありますので、支払い方法を事前に変更しておく必要もあります。
保証人が請求されることになる
保証人がついた債務に受任通知が送られると債務者への取り立ては止まりますが、代わりに保証人が返済を要求されることになってしまいます。
保証人に迷惑をかけることになるので、保証人つきの借金だけ任意整理から外したり、事前に保証人に相談をするなどの配慮をしなければいけません。
保証人に返済能力がない場合、最終的には保証人も債務整理をしなければいけない事態になることもあります。
ブラックリストに載ります
受任通知を受け取った債権者は、信用情報機関に「事故情報」を届けることになります。事故情報が個人信用情報に登録されるとブラックリスト入りすることになります。
ブラックリストに載っている間は、カードローンやキャッシングでお金を借りることができない、クレジットカードを作れない、住宅ローンなどのローンを組めないなどの不便があります。
受任通知のデメリット・リスクは債務整理に不可欠なもの
受任通知が送られることのデメリットやリスクをご紹介してきましたが、これらは闇雲に不安に感じる必要はありません。
なぜかというと、受任通知は債務整理の第一歩だから。
注意点はあるのですが受任通知の送付は借金問題を前向きに解決するために必要不可欠なことなんです。
税金は支払う必要があることや銀行口座の凍結などは、債務整理を依頼する弁護士・司法書士から詳しく説明があります。
また、保証人がついている借金を外して債務整理をする方法もありますので、それぞれのケースでより良い方法を提案してもらえるはずです。
ブラックリスト入りしてしまうことは避けられませんが、生活に対する影響なども説明を受けられるので、納得したうえで債務整理に取り組むことができます。
取り立てが止まるというメリットは大きい
受任通知は債務整理の最初に行われる手続きになり、早ければ依頼をしたその日のうちに発送してくれる弁護士・司法書士もいます。
受任通知にはデメリットや注意点もありますが、毎日のようにかかってくる催促の電話や郵便物がなくなるというメリットの方が大きいのは間違いないでしょう。
【まとめ】受任通知の効果は大きい
弁護士・司法書士が債権者に受任通知を送ると、返済をストップできますし、取り立ても止まります。
受任通知は債務整理を依頼すると早い段階で送られるので、受任通知は債務整理を専門家に依頼する大きなメリットであることはまちがいありません。
ただし、受任通知には注意点もあるので、ここでまとめます。
・差し押さえをされる可能性はある
・税金の督促を止めることはできない
・銀行に受任通知を送ると口座が凍結される
・保証人が請求されることになる
・ブラックリストに載る
債務整理を弁護士・司法書士に依頼するときには、この受任通知の注意点もしっかり説明があるはずです。
借金問題は放っておいても良くなることはありませんので、なるべく早く専門家(弁護士・司法書士)に相談して早期解決を目指しましょう。